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デジタル・データの概念を変えるNFT

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NFTは、オリジナルのデジタル・データを区別することができるといった表現がされます。しかし、その表現だけでは十分ではありません。そもそもデジタル・データは、コピーすることが簡単であり、オリジナルとコピーが区別などできないというのが、エンジニアには常識です。しかし、オリジナルとコピーを区別できるNFTというのは、いったい、これまでと何が違うのか、そのあたりを考えてみたいと思います。

今回も技術的な話というよりも、エンジニアが一般の人に対して、どのように説明すればいいのかというポイントを重点的に解説します。特に、デジタル・データは簡単にコピーできるけれど、NFTによって区別できるという意味をしっかりと理解してください。ここの説明が曖昧になると、デジタルのことがよく分かってない人が混乱することになります。中には、NFTはコピー・プロテクションと同じだと勘違いしている人もいるので、エンジニアとしては、正しく説明できるように押さえておきましょう。

フォートナイトにみるZ世代の価値観の変化

Z世代に大人気のオンラインゲーム「フォートナイト」は、ご存知だと思います。米津玄師さんがフォートナイト内でコンサートを行ったことでも有名になりました。

米津玄師、『FORTNITE』で開催したバーチャルイベントから「迷える羊」「感電」ライブ映像を公開
https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/104495/2

フォートナイトはメタバースの事例としても紹介されますが、基本はユーザ同士で戦うオンラインゲームです。ゲーム自体は無料で遊べるのですが、自分のアバターを着飾るためにデジタル・アイテムの衣服や帽子、靴などを購入しているのがZ世代。面白いことに、この衣服などのアイテムを身に付けたところで、強くなるわけではありません。ただ、「カッコイイから」、「可愛くなるから」という理由でお金を払い、アバターに着せています。私の知人には高校生の子供がいるのですが、しっかりとフォートナイトにハマっています。しかし、なぜ強くなるわけでもない衣服のアイテムに何千円もお金を払うのかがまったく理解できないと言っていました(笑)。もう、オジサン・オバサンには分からない消費行動です。

ただ、この消費が半端ない。ユーザ数が爆発的に増えていることもあって、フォートナイトの売上は年間で5000億円以上となっており、アバターを着飾るデジタル・アイテムという意味では、デジタルのファッション企業とも言えます。事実、この年間5000億円という売上規模は、プラダと同じ。フォートナイトは、デジタル・ファッションのトップクラスだと言っても過言ではないでしょう。

1兆円の収益をフォートナイトが2年で上げていたことが判明
https://gigazine.net/news/20210506-apple-epic-games-revenue/

このように若い人になるほど、デジタル・アイテムに対する価値観や消費行動が大きく違ってきています。Z世代よりさらに下のα世代では、現金に触れないQRコード決済、ニュースはテレビよりSNSで見るのが当たり前になっています。学校では、プログラミング教育を受け、リモート授業なども受けている世代。このような感覚の違いを理解しておかないと、NFTがどれほど大きくビジネスや世の中に影響してくるのかを過少評価してしまうでしょう。

NFTの登場で変わるデジタル・データの概念

コピーできるのが当たり前のデジタル・データ

デジタル・データは、簡単にコピーすることができて、しかもオリジナルとコピーは区別することなどできません。一瞬で何百、何千のコピーを作ることができ、さらにどれがオリジナルか分からないために、デジタル・アートやデジタル写真などはコピーの数が増えていくほど、限りなく価格はゼロに近くなってしまいます。経済原則の基本である希少価値がなくなるので、どうにもなりません。

だからこそ、コピーされないように様々なコピープロテクトの技術が開発されてきました。しかし、だんだんとプロテクション技術が複雑になり、機器のちょっとした不具合で再生できないとか、万が一のバックアップをとることもできないといった使い勝手が悪くなっていきました。さらに、新しい技術が出ると、それを打ち破る連中が出てきてコピーが広まるというイタチごっこの繰り返し。今は、オンラインでの動画配信など、簡単にキャプチャー、いや、モニタに映る映像をビデオカメラで撮影することができるのでコピーを止めることなど事実上、不可能です。

デジタル技術を分かっていれば、「コピーできること」、「オリジナルとコピーが全く同じであること」がデジタルのメリットであり、デメリットでもあることは十分理解できます。この常識に一石を投じたのがNFT。では、そのNFTがデジタルの世界にもたらしたものは何か、考えてみましょう。

NFTによる『唯一無二』とは何か?

NFTはコピー・プロテクションではありません。2021年の春ごろにNFTがメディアで取り上げられたときには、誰にでも分かりやすく伝えようとして、「NFTを使うとコピーを防ぐことができます」といった説明をしているメディアが少なくありませんでした。そのころの説明を鵜呑みにしている人も多く、未だに『映像をコピーされたくないのでNFTとして販売したい』といった相談が来ることがあります。

説明するまでもないですが、NFTにしたからといってコピーされないわけではなく、これまでのデジタル・データと同様に簡単にコピーできます。NFTアイテムを売買しているNFTマーケットプレイスにアクセスすれば、NFTアートを画面に表示するだけでなくダウンロードも可能です。あの75億円で落札されたNFTアート「Everydays – The First 5000 Days」もコピーしてパソコンに保存することができます。

オークションハウス「クリスティーズ」のサイトに掲載されている「Everydays – The First 5000 Days」
https://onlineonly.christies.com/s/beeple-first-5000-days/beeple-b-1981-1/112924

作品そのものは簡単にコピーできるのであれば、NFTアートが何千万円とか何億円で取引されるのは、いったい、何を取引しているのでしょうか?

NFTはデータを作った人がそのデータをオリジナルであると認め、また、その所有者をブロックチェーンに記録しています。データそのもの(デジタル・アート)をブロックチェーンの中にいれるオンチェーンと呼ばれる方法もありますが、大きなデータになると書き込む手数料(仮想通貨での支払い)が高額になり、また、どんどんブロックチェーンが巨大化していくので現実的ではありません。多くの場合は、データそのものは別の場所に保存されていて、そこに保管されたデータが認定されたものであるということがNFTとして記録されています。つまり、NFTを持っているということは、製作者やアーティストが認定した『唯一無二』のデータを所有しているという証明ができます。この感覚が本物を所有しているという実感であり、また、ブロックチェーンに記録されることで製作者との関係性が見える化されることで、身近に感じることができるようになるのです。

この感覚はリアルな物で考えるのが分かりやすいでしょう。例えば、ブランド物のバッグを買うにしても、ディスカウントストアで買うのと、そのブランドの店舗で買うのとは、まったく同じ品物であっても何か違う感覚になりますよね。バッグ自体は、何も違わないのですが、『ディスカウントストアで買った・・』という気持ち、『ブランドの店舗で買った!』という気持ちは、お金ではない何か違う価値を生み出しています。どちらも本物なのですが、買った店によって気持ちが違ってきます。であれば、偽物のバッグを持っていれば、さらにテンションは下がるでしょう。だからこそ、偽物はカッコ悪いことであり、どこか恥ずかしいという価値観が広がってきています。

デジタルの世界でも同じように、データとしては全く同じものであっても、NFTによって製作者が認めたデータとコピーのデータとでは、気持ちが違ってきます。製作者と繋がっている、製作者が認めたものを持っているというのが「NFTによる価値」なのです。

先に書いたように、Z世代の若者たちは、すでにこのような感覚になっていて、ゲームに勝つためでなくとも、自分たちの個性やファッションでのオリジナリティに価値があると感じていて、デジタル・アイテムへの消費に繋がっているのだと思います。

今後は、デジタル・データを所有するにしても、コピーを持っているというのはカッコ悪い、NFTとして所有しているのはカッコイイという価値観が広がてくるのではないかと思います。

デジタルでリアルの唯一性を証明する!?

NFTはデジタルだけに限定されるものではありません。リアルにある物であってもNFTと結びつけることは可能です。簡単な方法としてはシリアル番号をQRコードにしてシールを貼り付けます。そのQRコードをNFTと結び付ければブロックチェーンに記録することができるようになるのです。

もっとも、QRコードが簡単に剥がれるような状態では違うものに貼り換えられる可能性もあるので、もう少し手の込んだことをするのであればICタグを中に埋め込めば壊さないと取り出せないのでかなり信頼性は高くなります。ただ、それでも、埋め込む前にタグを盗まれたり、タグの発行システムを乗っ取られたりするといったことまで考え出すと、食品や工業製品のトレーサビリティと同じ問題が出てきます。

ただ、NFTだからこその違うアプローチもあります。物を動かさずにNFTで所有権を売買するということが可能になるので、ICタグなど必要としません。何も難しい話ではなく、建物や土地といった不動産はすでにそういう売買を行っています。所有者が替わっても、ビルは同じ場所に何十年も建っています。同じように考えれば、どこかの倉庫や金庫の中に絵画や貴金属を厳重に保管し、その所有権をNFTとして売買することもできるのです。

実は、この考え方は、超富裕層がすでに利用していて、有名なのはスイスのジュネーブにあるフリーポートです。ここは、税関を通過する前のどこの国でもない場所に倉庫があり、その中に世間には出てこない何億円もするような名画や彫刻、何千万円もするワインなどが貯蔵されています。税関を通る前なので、それぞれの国の輸入課税を支払う必要がありません。物が動かない(どの国にも輸入されない)ので課税されることなく、超富裕層は高額な商品を売買しているのです。

ジュネーブの保税倉庫ビジネス戦略を探る
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2021/3c220788562f20ab.html

最近は、数十万円から数百万円のアート作品を海外の方へ売買するために行うことが広まりつつあります。日本でも、羽田空港の倉庫で「輸入される前の絵画」を展示販売するようになりました。

羽田空港で日本初の保税蔵置場を活用したアートオークションを開催
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000037.000041526.html

まさに、「物を移動させることなく、所有権を売買する」ということがNFTによって可能になってきました。もちろん、何でもかんでもこのような販売方法に向いているわけではありません。

分かりやすく面白い事例を一つ紹介しておきましょう。

だれでも高級盆栽のオーナーになれる【支援型】NFTプロジェクトが今月22日から開始
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000108187.html

盆栽の所有権をNFTとして販売し、盆栽そのものはプロが手入れをして管理します。盆栽は手入れが大変で、素人が簡単にできるものではありません。また、他国へ盆栽を持ち出そうとすると、どんな植物の種や虫の卵が付着しているか分からないので土を全て落として植物検疫を受けてからでないと持ち出すことや相手国で受け入れることができません。現実的には、そんなことをしたら盆栽が傷んだり、枯れたりすることもあるので、不可能です。しかし、盆栽NFTで所有権だけを販売するのであれば、海外の方でも購入することができ、年に1回、自分の盆栽を見るために日本へ来るといったこともあり得ます。

盆栽ではないですが、世界的に人気のある錦鯉は日本のプロに世話を任せて、錦鯉を「飼っている」海外の人もいます。錦鯉のオーナー制度として定着しているのです。余談ですが、新潟県小千谷市では、錦鯉の1年オーナー権利をふるさと納税として提供しています。

新潟県小千谷市 錦鯉の里オーナー制度
https://www.nishikigoinosato.jp/owner.html

このように、少し発想を変えれば、NFTを応用できるビジネスは数えきれないほどあります。

NFTを使いこなせるアイデアが追い付いていない

NFTによって所有権として売買できるという視点を持つと、さまざまなビジネスが違って見えてきます。NFTは、ブロックチェーンのスマートコントラクトの機能のほんの一部にすぎません。ブロックチェーンに、1つしかないということを記録し、最初に発行したのが誰か、今の所有者は誰なのかをはっきりさせて、また、仮想通貨を支払うことで所有権が移転するという非常に単純な仕組みです。

前回の最後にも少し触れましたが、この仕組みは不動産や証券との相性がいいので、これらをトークン化してオンラインで完結する売買を行おうとしています。これが、具体的に動き出せば、日本にいなくても日本の土地や建物などを売買するといったことが起きてきます。

これらは、分かりやすい事例なのですが、まだまだ今までの仕組みの置き換えにすぎず、NFTの本当の活用方法を見いだせていません

ここで少し映画の話をさせてください。今では、カメラを動かしながら撮影するのは当たり前になっています。レールを敷いてカメラを代車に乗せて動かしたり、クレーンカメラで目線の高さも自在に変えたりしています。さらに、ドローンが広まったことで空高くからビルに近づいて、窓から部屋に入るまでをワン・カットで撮影することもできるようになりました。

しかし、映画でカメラを動かすようになるまでは、軽く小さくなる必要もありますが、そもそも、「カメラは固定するもの」、「最初から最後まで舞台で演じる内容をカメラで一気に撮影するもの」という固定概念からなかなか外れませんでした。

映画の父と呼ばれるリュミエール兄弟は、ある日、映画の機材が船に乗せられて港から離れていくのを見て、「カメラを動かせばいいんだ!」と気が付いたそうです。それまで、誰もカメラを動かすなんて考えもしなかったのです。カメラを左右に動かすとか、ズームするなどは、もっと後になってから。長い歴史を経て、やっと、今の映画のような撮影手法・編集技術が登場するのです。

この辺の話は、メディアアーティストの藤幡正樹先生とデジタルガレージの伊藤穣一氏との対談にも出てくる話なので、ぜひ、視聴してみてください。まだまだNFTには多くの可能性があることに気が付くと思います。

「Brave New Commons トークセッション 藤幡正樹x伊藤穰一」

(26分あたりから映画の話がでてきます)

まとめ

今回は、NFTが登場したことで簡単にコピーできるデジタル・データと、そこに新たに所有権といった概念が加わってきたこと、そして、それが新たなビジネスの可能性を生み出すことについて説明しました。

この大きな変化はITに関わるエンジニアであれば、衝撃の大きさに気が付くと思います。スマートコントラクトとしてプログラムを書けば何でも実装できるということが分かっていると、今は、ほんの1%程度しか活用できていないことも理解できるでしょう。

インターネットが登場したときには、電子メールが使えたところで、ちょっと便利な通信手段程度にしか大半の人たちは思っていませんでした。Webの技術が使えるようになって企業のホームページが出てきても、大半の人たちはパソコンを使えないから、何の役に立つのか分かっていませんでした。それが、今やインターネットは、水道や電気といった生活インフラの一部になっています。

NFTの規格であるERC721ができたのは2017年で、まだ5年ほどしか経っていません。エンジニアが考えるべきこと、開発すべきことは、膨大にあるはず。誰もが思いついていない使い方を妄想し、開発し、形にできるのはエンジニアの醍醐味です。ぜひ、挑戦してみてください。

次回は、もう少しビジネス寄りの話になりますが、NFTの話を拡大してトークンによって経済活動が大きく変わっていくという話をしたいと思います。想像以上の変化が起きてきていることにワクワクしてください。

【全4回】足立明穂の連載記事

第1回:NFTを支えるブロックチェーン

第2回:デジタル・データの概念を変えるNFT

第3回:NFTによって変容するビジネスの常識

第4回:2月公開予定

Podcast: 足立明穂の週刊ITトレンドX