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クラウドサーバーの固定資産税と会計処理:経理担当者・経営者が知るべきポイント

公開
クラウドサーバーの固定資産税を解説

クラウドサーバーの導入を検討している企業の経理担当者や経営者の方にとって、固定資産税の取り扱いは重要な判断材料となります。

本記事では、クラウドサーバーが固定資産税の対象外となる理由から、資産計上が必要なケース、適切な会計処理方法まで詳しく解説します。これらの知識を身につけることで、税務リスクを回避しながら効率的なクラウド活用が可能になり、企業の財務戦略をより最適化できるでしょう。

クラウドサーバーと固定資産税の基本的な関係

クラウドサーバーと固定資産税の関係を理解するには、まず設備の所有権は誰にあるかというのがポイントになります。ここからはクラウドサーバーと固定資産税の基本的な関係について見ていきましょう。

クラウドサーバーが固定資産税の対象外となる理由

クラウドサーバーが固定資産税の対象外となる最大の理由は、利用企業が物理的な資産を所有していないことにあります。

クラウドサービスでは、サーバーやネットワーク機器などの物理的設備はすべてクラウドプロバイダ企業が所有・管理しており、利用企業はこれらの設備に対する所有権を持ちません。

固定資産税は土地や建物、機械設備などの有形固定資産を「所有している者」に課税される税金であるため、所有権のないクラウドサーバーは課税対象から除外されます。

利用企業は月額利用料やサービス利用料を支払うことでクラウドサービスを利用する権利を得るだけであり、これは不動産の賃貸借契約やサービス契約などと同じような性質を持ちます。

オンプレミスサーバーとの税務上の違い

オンプレミスサーバーを運用する場合、企業は自社でサーバー機器や関連設備を購入・設置する必要があり、これらは固定資産として計上され固定資産税の課税対象となります。

具体的には、サーバー機器本体、ネットワーク機器、UPS(無停電電源装置)、空調設備などの償却資産が該当し、さらにサーバールーム用の土地や建物についても固定資産税が発生します。

この違いは企業の税務コストに大きな影響を与え、特に大規模なIT設備を必要とする企業にとって、クラウド移行による固定資産税の削減効果は年間数百万円から数千万円規模になることも珍しくありません。

比較項目オンプレミスサーバークラウドサーバー
固定資産税対象となる
(サーバー設備、土地、建屋など)
対象外
(設備を保有しないため)
資産の保有自社で物理的な設備を保有プロバイダが設備を保有
(利用企業は保有しない)
設備投資必要
(サーバー、通信網など)
基本的に不要
会計上の処理固定資産として計上自社開発費用は無形固定資産、
月額利用料および初期費用は費用処理
税務上の処理固定資産として減価償却初期費用は繰延資産、
自社開発費用は無形固定資産、
月額利用料金は費用処理
償却期間資産の種類により異なる会計:5年または契約期間 / 税務:5年
初期費用取得価額に含め有形・無形固定資産として計上会計:費用一括処理 / 税務:繰延資産として計上
税負担固定資産税が継続的に発生固定資産税なし(税負担軽減)

クラウド移行による固定資産税の軽減効果

オンプレミスからクラウドへ移行することで、企業は固定資産税の大幅な軽減効果を実現できます。

例えば、年間固定資産税が100万円かかっていた自社サーバー設備をクラウドに移行した場合、物理的な資産を手放すことで固定資産税の課税対象から除外され、税負担をゼロにすることが可能です。

この軽減効果は単年度だけでなく、サーバー設備の耐用年数期間中継続するため、長期的な税務メリットは非常に大きくなります。

ただし、移行に伴う費用対効果や会計処理への影響を正確に把握するためには、事前に税理士と相談しながら具体的な税負担シミュレーションを行うことが重要です。

クラウドサーバーの資産計上が必要となるケース

クラウドサーバーの場合は基本的に月額利用料として費用処理されますが、以下のようにソフトウェアとして資産計上が必要となるケースがあります。

  • 自社利用のソフトウェアとして開発・カスタマイズした場合
  • PaaSやIaaSを使って自社専用の環境構築やシステム開発を行った場合
  • 長期契約による前払い費用や専用カスタマイズが含まれる場合

ここからはそれぞれの場合について詳しく見ていきましょう。

自社利用ソフトウェアとしての資産計上条件

自社で業務利用する目的でソフトウェアを開発・カスタマイズした場合でも、その取得価額(開発費用)は無形固定資産として資産計上できます。

まず前提として、ソフトウェアを自社で開発した場合の資産計上するのか費用計上するのかの基準は税務と会計で異なります。

会計上の条件は、「将来の収益獲得または費用削減が確実な場合に資産計上、それ以外は費用計上」となります。たとえば、会計システムを自社開発したとして、記帳や仕訳、経費精算などにかかる作業時間が明らかに短縮された場合には、システムの導入によって一定の費用削減をもたらしていると考えられます。この場合、会計における無形固定資産として計上することが可能です。そして、まだ研究開発段階で実用的ではないようなソフトウェアや、効果が出るかどうかわからないようなソフトウェアは費用計上します。

一方、税務上の条件は、「将来の収益獲得または費用削減が確実に無い場合のみ費用計上、それ以外は資産計上」となります。税務上は効果が出るかどうかわからないソフトウェアの場合には資産計上になるのです。

会計上の条件将来の収益獲得または費用削減が確実な場合に資産計上、それ以外は費用計上
税務上の条件将来の収益獲得または費用削減が確実に無い場合のみ費用計上、それ以外は資産計上

つまり、会計と税務では効果が出るかどうかわからないソフトウェアの扱いが異なっていると言えます。会計では費用計上、税務では資産計上です。これがソフトウェアの資産計上の基本原則となります。

また、上記の条件に加えて、資産計上するには取得価額(開発費用)が一定額以上であることも条件です。原則として開発費用の合計が10万円以上である場合に資産計上が可能になり、それ以下の場合には費用として計上します。

上記の資産計上条件は自社利用ソフトウェアだけでなく、販売目的のソフトウェアや、後述するPaaS、IaaSにおける事例などソフトウェア開発全般において同様です。

PaaS・IaaSにおける無形固定資産の計上

PaaS(Platform as a Service)やIaaS(Infrastructure as a Service)を利用して、その上に自社でシステムやアプリケーションを構築した場合にも、その開発にかかった費用は取得価額として無形固定資産に計上します。

これは、クラウド環境上であっても自社が開発・構築したアプリケーション等のソフトウェアの所有権は、クラウドベンダーではなく開発した企業にあるためです。

PaaSやIaaSの基盤サービス自体の月額利用料については、原則として費用計上となりますが、システム開発時に発生した利用料金については、取得価格として資産計上する場合もあります。

この処理により、クラウド環境での開発投資を適切に資産として認識し、減価償却を通じて費用配分することが可能になります。

レンタルサーバーと資産計上の関係性

レンタルサーバーは基本的に利用権を購入するサービスであり、物理的なサーバー機器を所有するわけではないため、通常は固定資産として計上することはできません。これは、レンタルサーバーの契約が終了すれば利用権も消失し、第三者への売却や譲渡ができない性質を持つためです。

しかし、レンタルサーバー上で独自のソフトウェアやシステムを構築し、それが自社利用ソフトウェアの要件を満たす場合には、そのソフトウェア部分については無形固定資産として計上する必要があります。

具体例
  • 将来収益や業務効率化を目的に制作されたソフト
  • 制作費用が一定額以上(目安10万円以上)

一方で、月額数千円程度の基本的なレンタルサーバー利用料や、機能のアップグレードではない日常的なメンテナンス費用については、資産計上せずにその事業年度の費用として処理することが一般的です。

クラウドサーバー構築費用の会計処理と勘定科目

クラウドサーバーの構築費用は内容によって処理方法が異なります。

  • 月額利用料:「通信費」「支払手数料」などで費用処理
  • カスタマイズや開発費用:「ソフトウェア」勘定で無形固定資産計上
  • 初期設定・移行費: 効果が複数年に及ぶ場合は繰延資産計上

月額利用料の費用処理方法

クラウドサーバーの月額利用料は、基本的に発生した月の費用として計上します。これは、クラウドサービスが利用期間に応じて課金される仕組みであり、継続的なサービス提供の対価として支払う性質を持つためです。

特にSaaS型のクラウドサービスについては、特別な資産計上の検討は不要で、契約時の初期費用や毎月の利用料金をそのまま費用として計上できます。勘定科目については、「通信費」「支払手数料」などが一般的に使用されており、企業の会計方針や利用目的に応じて適切な科目を選択することが重要です。

ただし、月額利用料であっても、年間契約で一括前払いした場合は前払費用として資産計上し、利用期間に応じて費用化する処理が必要となります。

カスタマイズ費用の資産計上と取得価額

クラウドサーバーのカスタマイズ費用については、企業会計基準委員会の実務指針において「システムの導入に必要なカスタマイズ費用は取得価額に含める」と明確に定められています。

この規定により、単純な月額利用料とは異なり、機能のアップグレードや設定変更にかかる費用は資産として計上する必要があります。

資産計上を開始するタイミングは、カスタマイズが完了し実際に利用可能となった時点であり、この際には稟議書や管理台帳などの適切なエビデンスを整備することが重要です。

特に将来の収益獲得や費用削減効果が確実に見込まれる場合には、その経済的便益を反映した資産計上基準を適用し、取得価額の算定においても慎重な検討が求められます。

サービス種類別(SaaS・PaaS・IaaS)の処理方法

サービス種類特徴会計処理方法
SaaS
(Software as a Service)
・プロバイダがハードウェア、インフラ、ソフトウェアを提供
・ユーザーはWebブラウザ等を通して機能を利用
・自前環境へのインストール不要
・申し込み後すぐに利用可能
・特別な設定がほぼ不要
・月額利用料金は費用として処理
・初期費用がほぼ発生しない
・契約料や月額利用料は費用計上
PaaS
(Platform as a Service)
・プロバイダがサーバー、インフラ、プログラム実行環境、データベースを提供
・ユーザーがソフトウェアやアプリを自社開発して運用
・システム開発時にハードウェアやインフラの準備が不要
・原則として月額利用料は費用として処理
・自社で開発したアプリケーション等の開発費用は無形固定資産として計上
・契約内容により会計処理が異なる場合あり
IaaS
(Infrastructure as a Service)
・プロバイダがサーバーやインフラ環境を提供
・ユーザーが自らアプリケーションを構築
・利用企業が自前で構築作業を行う必要あり
・原則として月額利用料は費用として処理
・自社で開発したアプリケーション等の開発費用は無形固定資産として計上
・契約内容により会計処理が異なる場合あり

クラウドサーバーの税務処理と減価償却計算

クラウドサーバーの税務処理で重要なのは繰延資産の取り扱いです。初期設定費用や移行費用などは繰延資産として計上し、期間按分して償却します。

繰延資産としての税務上の取り扱い

先述したように、クラウドサーバーを資産計上する場合は基本的に無形固定資産として計上します。それは会計も税務も同じです。しかし、それは自社が独自に開発やカスタマイズを行い、ソースコードの所有権を保有する部分のみです。

一方、自社の所有する部分にかかる費用ではなく、ベンダーが保有するソフトウェアの利用にかかる初期設定やデータ移行費は繰延資産として計上します。これは、初期導入時の初期設定費やデータ移行費については、自社の保有する部分にかかる支出でなくとも収益獲得の効果が長期に渡り続く支出であり、資産性を有するからです。

  • 無形固定資産計上: 自社開発・カスタマイズ部分
  • 繰延資産計上: 初期設定・移行費など

この場合、支払った費用を一括で損金算入するのではなく、サービス利用期間にわたって定期的に償却していく必要があります。具体的には、契約期間や実際の利用予定期間を基準として、毎月または毎年一定額を費用として計上し、段階的に損金算入を行います。

ただし、月額利用料のような継続的な利用料金については、資産計上せず、発生時点で費用処理します。

減価償却の耐用年数と償却方法

クラウドサーバーを無形固定資産として計上した場合の減価償却については、実務指針において明確な基準が示されています。

自社利用ソフトウェアとして計上されたクラウドサーバーの耐用年数は、会計上は原則として5年とすることが決まっており、この期間内で定額法による償却を行うのが一般的です。

ただし、システムの性質や利用期間が明確に5年を超えることが合理的に説明できる場合には、より長期間での償却も認められる可能性があります。この場合、技術的な陳腐化のスピードやクラウドサービスの特性を考慮した十分な根拠資料の準備が必要です。

一方、税務上は5年しか認められず、任意の年数にする選択肢はありません。ここでも税務と会計で異なるので注意しましょう。

  • 会計上: 原則5年(定額法)。合理的根拠があれば長期設定も可能。
  • 税務上: 無条件に5年償却。会計と税務で差異が生じる。

損金算入のタイミングと注意点

クラウドサーバーの構築費用を繰延資産として計上した場合、損金算入は複数年にわたって行われるため、適切なタイミングの把握が重要です。

税務上の損金算入は、各事業年度の償却限度額の範囲内で実施され、この限度額を超えた部分は減価償却超過額として翌期以降に繰り越されます。

特に注意すべき点は、会計上の償却額と税務上の償却限度額が異なる場合があることで、この差額は申告調整により適切に処理する必要があります。

また、繰延資産の償却期間中に事業の性質が変更された場合や、クラウドサービスの利用を中止した場合には、残存簿価の一括損金算入が可能となるケースもあります。

  • 損金算入は各年度の償却限度額内で行う
  • 限度超過額は翌期以降に繰越
  • 会計償却と税務償却の差額は申告調整
  • 利用中止時は残存簿価の一括損金処理も可

損金算入のタイミングを誤ると税務調査で指摘を受ける可能性があるため、顧問税理士と連携して適切な会計処理を行うことが重要です。

まとめ

クラウドサーバーの固定資産税や会計処理について理解することは、企業の税務戦略において重要な要素となります。

基本的にクラウドサーバーは固定資産税の対象外となりますが、自社利用ソフトウェアとして資産計上が必要なケースも存在します。

クラウド移行を検討する際は、これらの税務処理の違いを十分に理解し、専門家と相談しながら最適な導入方法を選択することが重要です。

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